ライブハウスの壁を見るのが好きだ。
好きなバンドが、今度知らないバンドの主催ライブに出る。今では人気のアイドルの、昔の新譜告知ポスターにサインが入っている。今日見に来たアーティストが、数年前の日付でサインしている。
現代の音楽には人一人では到底全貌を知ることはできない歴史の積み重ねがあり、しかし少し掘り下げてみると時に自分の知っている音楽の世界と重なることがある。ライブハウスの壁は、そんな感覚を抱かせてくれる。
内山フェスは、こういう感覚にワクワクする自分を満たしてくれるイベントだ。
内山フェスこと「tie in reaction」は、アイドルグループ・RAYのメンバーで音楽通としても知られる内山結愛が主催する対バンイベントだ。
2025年に入ってからは毎月開催されており、2026年1月には3会場周遊フェスとしての開催が決まっている。
直近で私が参加したvol.11(2025/8/22開催)では、TØGARÜ、Trooper Saluteの2組がゲストだった。
1組目、幕が上がる前からDJに合わせてドラムを叩き期待を高めてくれたのはバンド体制になって3回目というTØGARÜ。激しく情熱的ながら、美しくて緩急がある。8曲からなるボリュームあるセトリながら最後には「もう終わってしまうのか」と惜しくなった。そして演奏する姿のカッコよさたるや。最後にギターを高く掲げたとき、会場のテンションは最高潮だった。
Trooper Saluteは幕が上がると同時にあみん「待つわ」のコーラスが始まり、「冷たいマーメイド」につながる度肝を抜かれるスタート。日本のポップスの歴史に触れてきた者なら誰しも耳に馴染むメロディが、一癖も二癖もあるサウンドの中では何通りもの表情を見せる。この日に向けて音源で聞いてきた曲も、ライブだとより楽しい、なんてもんじゃない。リズムはよりスリリングだし、ボーカルの圧倒的な存在感から目が離せない。
そしてRAYは久しぶりの披露となる「レジグナチオン」に始まり、曲によって様々なサウンドの中でも共通して美しいメロディが流れ続けるセトリで前2組が盛り上げたフロアを彩った。
この回は歴代内山フェスの中でも特に素晴らしかった。しかし同時に、このイベントらしい良さが出た回でもあったと思う。
この内山フェス、イベント名に名前を冠しているのは伊達ではなく、制作の大部分を内山さんが行っている。もともと多忙なRAYの活動と同時に血反吐を吐きながら(本人談)作られているだけあり、内山さんの音楽愛と伝道師としての取り組みが存分に現れている。
まず目を引くのは絶妙なブッキングだ。どの回でも今見る価値のあるアーティストを、注目度の高い若手から「ここを呼ぶか」と驚くベテランまで自由に呼んでいる。
2025年開催のvol.4以降では、毎月テーマを決めて制作されている。最初は「シューゲイズ」「エモ」といった一般的な音楽ジャンルがテーマになっていたが、現在ではそれにとどまらず、これがまた面白い。
vol.11のテーマは「令和的ノスタルジー」である。ゲスト2組、そしてRAYも含めてやっている音楽ジャンルを言葉で表現したら(それも難しい人たちだけど)おそらくあまり使われる言葉は被らないけれど、ライブで体感する喜びはどこか共通点がある。
ジャンル横断的なアイドル音楽の世界にいるRAYという環境ゆえに、このブッキングが可能になっているのかもしれない。
RAYのセトリも毎回内山さんが決めている。RAYの豊かな楽曲群の中から、いかにテーマを表現するか、普段の対バンとは異なる角度で決まるセトリも見応えがある。
こう書いていると音楽通向けのイベントなのかな?と思われるかもしれない。RAYは音楽に詳しいファンも多いし、出演バンド発表に盛り上がってる人がいる中で知らない自分は十分に楽しめないかも…と思うのは無理からぬことだ。でも実際そんなことはなくて、個人的な感触としては、むしろ入口になれるイベントだと思っている。
出演バンドの紹介やおすすめ音源が事前にTwitterで告知されるから、知らないバンドでも軽い予習をしやすい。入場特典として毎回内山さん手製のZINEが配布され、テーマに合わせたおすすめのアルバムが紹介されている。また、vol.9からは開演前に内山さん自身によるDJが行われるようになった。毎回見に行ってDJプレイの上達っぷりを見るのも楽しい(この手作り感、上達を見守る楽しみは非常にアイドル現場的なイベントともいえるかもしれない)。
以上のように、近しい魅力を持つ音楽に出会う導線をたくさん用意してくれている。私自身、「令和的ノスタルジー」が好きなのかも…と思い始めている。
もちろん、ただRAYや出演バンドが好きで参加して、その回のライブを楽しむだけでも問題ない。あくまでそうすることもできる、というだけである。
すでに告知されているvol.12, 13の出演者は個人的に好きなバンドが多く楽しみだ。ただそれはライブだけでなく、DJやZINEのラインナップ、あるいはポップコーンのフレーバーに至るまで、どんなイベントになるのだろうと想像するところも含めての期待が胸を埋め尽くしている。